新規事業を検討している企業は多いことでしょう。
現状打破の起死回生策としてや、ワンランク上を目指してのもの、あるいはこれまでに培ったノウハウでできることを探して等、様々な理由があるかと思いますが、新規事業とは何を意味するものなのかや、成功させるためのポイント等についてを解説していきましょう。
目次
新規事業とは?
新規事業とは、これまでとは異なる新しい事業ですが、その範囲は幅広いものです。
例えば広い意味では同じジャンルではあっても異なる商品を手掛ける際には新規事業になります。一例として、これまで中華料理を手掛けていた飲食店がイタリアンのメニューをと考えたり、あるいはイタリアンの店舗出店を考えることは新規事業です。
また、アパレル業者が飲食店進出を目指す等全く異なる事業への進出も新規事業になります。
このの点からも、「新規事業」という言葉が意味する範囲は広いことが分かります。しかし、いずれにせよこれまでとは異なる戦略が求められますので、成功する保証はありません。それまで他のジャンルで大きな信頼を勝ち得たとしても、新規事業で失敗するケースも多々あります。
なぜ企業にとって新規事業が必要なのか?
新規事業とは、いわば新しいチャレンジです。
既存のビジネスが安定しているのであれば、わざわざ新しいチャレンジをする必要はないだろうと考える人もいるのですが、企業にとって新規事業は必要なものです。
むしろ新規事業にチャレンジしなければ、企業としての成長・発展はないと囁かれているほど、新規事業は多くの企業にとって視野に入れておくべきものです。
その理由として、主に下記の二つが挙げられます。それぞれ見てみるとしましょう。
既存事業の成長は必ず鈍化する
安定して売り上げを伸ばすことで成長を遂げている企業も多いことでしょう。
しかし、成長とは無限ではありません。いずれ既存事業の成長は鈍化します。事業に着手した当初は手探りでも、ニーズを的確に捉えはじめ、かつニーズに応えるための環境が整備されることで企業は成長局面に突入します。
この時期は、企業が良い方向に進みますので、歯車が噛み合い、大きな成長を遂げることでしょう。しかし、成長はいずれ鈍化します。
同じ事業のみで延々と右肩上がりで成長できるほど、市場は甘いものではありません。これまでと同じように取り組んでいるとしても、競合の登場、ニーズのずれ等から、次第に成長は鈍化します。
その時に、いつまでも鈍化した市場にこだわっていては、会社そのものも沈没しかねませんので、新規事業が求められるのです。
レッドオーシャン化
ヒット商品が出れば模倣品が出回る。
これはビジネスの常識です。
ヒット商品・サービスを生み出し成長を遂げたとしても、必ず競合が表れます。
そして後から参入する競合は、先駆者をベンチマークとしますので、先駆者よりも良い点をアピールします。特に訴求しやすいのが価格です。
先駆者よりも安い価格でアピールすることで、先駆者からシェアを奪おうとするものです。このような企業間競争はビジネスでは当たり前のことですが、市場競争は結局は体力勝負になりますので、資金力のある企業が勝利を収める傾向にあります。
そしてこのような競争相手は一社だとは限りません。
魅力的な市場であればあるほど、あるいは既に市場を席捲している企業に勝てると考える企業が多ければ多いほど、競争はより熾烈なものになります。いわゆるレッドオーシャン化で、多くの競争相手が登場すれば、それまでのような成長を遂げるのは難しいことでしょう。
そこで新規事業が求められるのです。
新規事業|任天堂の事例
新規事業は多くの企業が実践していますが、新規事業の成功事例として多々取り上げられるのが任天堂です。
なぜなら、任天堂は新規事業への進出を繰り返してより大きな企業へと成長したからです。
任天堂といえば今日では世界的なゲームメーカーとしての地位を確立しており、日本国内はおろか世界にその名を轟かせている巨大企業です。
任天堂の一挙手一投足に世界が注目していると言っても過言ではないほど、業界だけではなく、日本経済のリーディングカンパニーの一つですが、明治22年(1889年)創業時は花札会社でした。
当時花札が庶民の間で人気を集めていたからこそ、花札を製造していたのでしょう。その後1902年、任天堂は新規事業としてトランプ製造に着手します。
花札からトランプはまさに新規事業への着手そのものです。その後はトランプ製造メーカーとして、日本発のプラスチック製トランプの製造に成功するなど、トランプ業者としての地位を確立します。
そして1977年に家庭用ゲーム機を発売します。
これはいわゆるファミリーコンピューターではなく、「テレビゲーム15」「テレビゲーム6」と呼ばれるものです。
戦後、トランプが庶民の間で流行を見せ、かつ多くの業者が参入してきたことでトランプ市場はレッドオーシャン化。すると任天堂は更なる新規事業として家庭用ゲームに進出します。
そして1983年、「ファミコン」の愛称で日本はおろか世界中を席捲することになるファミリーコンピューターを販売することで、一躍世界的ゲームメーカーとしての地位を確立します。
その後、家庭用ゲーム機市場は多くの業者が参入し、世界的にも激しい競争が繰り広げられることになりました。
任天堂はゲームウォッチからの流れで携帯ゲーム市場にも早くから参入していたのですが、それらを掛け合わせた新規事業が、2017年に投入した「Nintendo Switch」です。
販売から長らく品薄状態が続いたほどの人気商品は、「持ち運べる家庭用ゲーム機」として、これまでの家庭用ゲーム機と、世間を席捲していたスマホゲームの長所を上手く取り入れました。
このように、任天堂レベルの大企業でさえ、現状に甘んじることなく新規事業に取り組む姿勢を見せています。
実際、任天堂は他社に大きくシェアを奪われた時期もあります。例えば家庭用ゲーム機競争が過熱する要因となったSONYの参入。
「PLAY STATION」は、スタイリッシュなゲームが多いことから、青年層に刺さりました。結果、任天堂からシェアを奪うに至り、その後任天堂はNINTENDO64、ゲームキューブ、Wiiと様々な家庭用ゲーム機を新規で投入しましたが、シェアの大幅な回復には至りませんでした。
また、携帯用ゲーム機に関してもやはりSONYから販売されたPLAY STATION POCKET(PSP)にシェアを奪われました。シェア奪還を目指してニンテンドーDS、ニンテンドー3DSといった携帯機を投入しましたが、やはりこちらも大幅にシェアを奪還するには至らず、むしろ「子供向けなら任天堂、大人向けならSONY」といった住み分けが加速していくことになります。
もちろんこの間、SONYと任天堂だけが争っていた訳ではありません。
SEGAからセガサターン、Dream Cast、MicrosoftからはX Boxなど様々な家庭用ゲーム機が投入されるなど、家庭用ゲーム機市場はまさにレッドオーシャン化しました。
しかし、その都度任天堂は新規事業に乗り出し、新たな価値観を創造することで市場を席捲。他社がそこに追随し、レッドオーシャン化する頃には新規事業を形にして、さらに新しい価値観を創造する。この繰り返しにより、任天堂は絶えず、ゲーム業界にて大きな存在感を発揮し続けているのです。
新規事業を成功させるコツ
新規事業は必ず成功するとは限りません。
取り組み方次第では失敗するケースもあります。
では新規事業を成功させるためのコツとは何か。この点を掘り下げて解説していきましょう。
新規事業はスピードが肝心
新規事業を成功させるために大切なことは多々ありますが、基本的にスピード感が求められます。
なぜなら、市場が変化するからです。また、競合とて新規事業に着手しているのです。仮にですが、競合と同じような新規事業を考えていたものの、スピード感が無く、商品・サービス化が競合よりも遅くなってしまったら、似たような商品・サービスを後から出して支持を得られる訳がありません。
ともすれば市場から「パクりなのではないか」「模倣している」「盗作だ」といった評価を受けることになりかねません。
新規事業の計画立ち上げから製品化まで時間がかかればかかるほど、想定していたニーズがずれてしまう可能性も高いですし、ニーズだけではなく経済情勢等の変化や競合の動向等、予期せぬ動きが多々見られますので、新規事業はスピード感を持って取り組まなければ成功の可能性は低いです。
PDCAのサイクルを高速で実行する
スピード感を基に、PDCAサイクルを実践することも新規事業成功のコツです。
PDCAとは新規事業だけではなく、ビジネスに様々な形で活用されているフレームワークです。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(検査)
- Action(対策)
これらの頭文字を取って名付けられたもので、計画したら実行し、結果を検査して対策を立てる。この繰り返しがPDCAサイクルです。
PDCAをスピーディーに取り組むことで、新規事業の成功の可能性は高まります。
また、PDCAは決して新規事業のためのフレームワークではなく、ビジネスに於ける様々なシチュエーションにて活用できるものなので、これまでPDCAサイクルを意識してこなかった場合、改めてPDCAサイクルを実践することで、今後のノウハウとなることでしょう。
まとめ
新規事業とは決してどの企業にとっても無縁のものではないことが分かっていただけたのではないでしょうか。
家庭用ゲーム機業界における「絶対王者」として君臨していた任天堂でさえ、幾度となく新規事業を繰り返しているのです。
この事実だけでも、如何に新規事業が大切なものなのかが分かりますが、では新規事業は具体的に何が大切なのか。その点を踏まえつつ、今だけではなく将来を見据えた新規事業への取り組みが求められます。