地域ブランティングへの注目度が高まっています。
都心部への人口流出や少子高齢化等の影響により、過疎化の進んでいる地方は珍しくありません。どの地方も如何にして人に住んでもらうか、訪れてもらうかに苦心しています。
定住はもちろんですが、観光客が増えることでも地域の活性化が生まれます。しかし、定住にせよ観光にせよ、地域の魅力が大前提です。
そこで地域の魅力を訴求する手法として、地域ブランディングが注目を集めており、多くの地域が実践しています。
それらを踏まえ、地域ブランディングについてや成功の秘訣など、様々な点から見てみるとしましょう。
目次
地域ブランディングの定義と目的とは?
地域ブランディングとは、地域の魅力を高め、発信する活動を指します。
「ブランディング」は企業やビジネスパーソンの多くが意識していますが、その地域版だと考えると分かりやすいでしょう。
文化、歴史、名所等、地域の魅力を発信し、地域の発信したいイメージを多くの人に共有してもらうための活動です。
ただし、目的に関しては地域によって異なります。
観光客を増やしたい地域、定住者を増やしたい地域もあれば、特産品を知ってもらいたい等、様々ではありますが、まずは興味を持ってもらうことです。
特にお世辞にも知名度が高いとは言い難い地域にとっては、まずは地域の名前を覚えてもらうことが大切です。
目的に応じて自らの地域をアピールする材料として、様々な魅力を発信する。それこそが地域ブランディングです。
地域ブランディングが必要になった背景について解説!
地域ブランディングが必要になった背景としてまず考えられるのが地方の衰退です。
冒頭でもお伝えしたように、多くの地方・地域にて都心部への人口流出が加速しています。インフラや娯楽といった生活の利便性は、どうしても大都市の方が魅力的なものです。
さらには我が国全体で進んでいる少子高齢化の影響もあり、人口減少によって衰退・疲弊している地域が珍しくありません。
人がいなくなるから産業も衰退する。
産業が衰退するので人が減る。
このような悪循環を抱えている地域は珍しくありません。
しかし、何もしなければこの悪循環が加速するだけ、つまりは人がますますいなくなるだけでしかありません。そこで生まれたのが地域ブランディングです。
地域の魅力をは発信することで、地域の魅力を知ってもらう。移住・定住や観光など様々な目的があるにせよ、まずは地域を知ってもらうことが一歩目です。
そのために地域ブランディングが必要とされています。
地域ブランディングの成功事例をご紹介
地域ブランディングが注目を集めている背景に、実際に地域ブランディングに成功している地域があるからです。
成功事例があるからこそ、自らも地域ブランディングを実践し、目的を達成したいとの思いが芽生えているのも事実です。
そこで、実際に地域ブランディングに成功した地域をいくつかご紹介しましょう。
瀬戸内海「直島(なおしま)」
瀬戸内海に面する香川県直島は、人口およそ3,000人の小さな島です。岡山県の宇野港から船でおよそ30分ほどの位置にある離島は、お世辞にもアクセスの良い地域とは言えません。
しかし、地域ブランディングの成功により、日本人だけではなく世界中から多くの観光客が訪れているのをご存知でしょうか。
直島もまた、過疎化に悩まされていました。そこで「家プロジェクト」を立案。
家プロジェクトとは、空き家となっていた古民家を改修し、アーティストが作品化するもので、過度な都市化に対して抵抗を持つ地元住民の意向に沿ったものでもありました。また、中には住民が所有している作品もあるなど、地元民参加型のプロジェクトでもあります。
結果、観光客が増加を見せるようになりました。さらに、観光客が増加することで美術館等の施設も増加し、島に活気が見えるようになりました。
島を訪れた観光客と地元住民との新しいコミュニケーションも模索されています。
島根県 海士町
島根県の海士町は、日本海に浮かぶ離島で平成20年度には財政再建団体になるとまで予測されていました。
財政再建団体とは、借金が膨れ上がってしまい、返済困難な団体を指します。人がいないから物もなくなる。物がないから人もいなくなる。海士町もまた、地域特有の悪循環に悩まされていましたが、地域ブランティングにより、人口のおよそ1割が町外からの移住者となりました。
その施策として、「ないものはない」と宣言しました。
海士町は離島です。
都会のような便利なインフラに囲まれた島ではありません。しかし、都会にはない自然に恵まれていました。それを逆手に取り「ないものはない」とのキャッチフレーズをかかげ、「人づくり・モノづくり・健康づくり」の3つの柱を制定。
また、地域の活性化にはいわゆる「よそ者」も必要だと考え、移住者獲得のために、まずは町長が自らの給与を半額カットし、浮いた費用で農業や漁業などの産業振興や移住促進のための投資にあてました。
すると、町長の姿勢を見た他の職員も給与カットや優遇措置の中止、さらには補助金辞退など町全体が同じ目的を共有するようになり、その費用にて商品開発研修生を全国から募集しました。
「ないものはない自然の島で、宝探しをしてください。1年間の成果をレポートを自由に提出するために、月15万円支給する」と。
そのために空き家や公営住宅など、合計141戸を整備し、移住者受け入れ体制を整えました。
そして移住してきた若者が、島の自然に触れ、独自に様々な商品を提案。まさに、「海土町だけのもの」が多々登場。さらにはこの流れを受け、学校のづくりも推進。
結果、移住者も増え、学校では生徒数・クラス数が倍増するに至りました。
安心院の農村民泊
大分県の宇佐市安心院町は面積のおよそ7割が森林という自然豊かな町です。
2005年に宇佐市と合併したのですが、農業従事者の高齢化による過疎化が進むなど、地域特有の問題に悩まされていました。
そこで安心院町では、ヨーロッパ発祥のアグリツーリズムに着目。アグリツーリズムとは、まさに現代社会で必要とされている「体験」でした。
その内容とは、会員制の農村民泊事業でした。
会員登録することで、宿泊施設ではなく安心院町のごく普通の民家の空いた部屋に宿泊し、農村生活を体験できる旅行を提案したのです。
この点は、実は逆転の発想でした。なぜなら、宿泊を提供するとなれば、旅館業法や食品衛生法、消防法などすべてを満たしておく必要がありました。
そこで会員制とし、さらには宿泊費ではなく農村文化体験料を謝礼として受け取ることで、宿泊事業ではなく、あくまでも体験事業として提供が可能になりました。
お客様として扱うのではなく、家族のつもりで接するをモットーに、実際に農業体験が可能です。結果、コロナ前では1施設1日1組のみでありながら年間およそ6,000人が安心院町を訪れるほど、かつての過疎化が嘘のような活気を手にすることに成功したのです。
地域ブランディング成功のための5つのポイント
地域ブランティングを成功させるためには、5つのポイントがあります。
これらを理解することこそ、地域ブランティング成功には欠かせません。
企画先行、プロダクト先行型にならない
地域ブランティングを成功させるために、それぞれ様々なアイディアを出しあうことでしょう。しかし、企画先行やプロダクト先行になると、成功する可能性は低下します。
アイディアを出すことは大切です。しかし、住民感情、あるいは現場のニーズを無視し、目的実現のためだけのアイディアを出しても、実行、あるいは受け入れる住民側としては複雑でしょう。
特に現代社会はプロダクト先行型は敬遠される傾向にあります。より自然なものを楽しみたいニーズが高まっていますので、プロダクト先行型や企画先行ではなく、地域にどのようなニーズがあるのか、ニーズとなるものはないのかを模索し、ニーズに応えるというスタンスが重要です。
アイデンティティを明確に
アイデンティティを明確にすることも大切です。
他の地域にはない、独自のアイデンティティであればあるほど、アピールポイントになります。アイデンティティは大げさに言えば存在意義になりますが、地域のアイデンティティをより自然な形でアピールすることこそ、地域ブランティングの肝です。
例えば昔ながらの産業は独自のアイデンティティとして掲げやすいです。
それまでの歴史や文化などを内包していますので、産業を通して地域の魅力を発信できます。しかし、例えば地域ブランティングのためだけに設定したような産業では、アイデンティティはありませんので、訴求力は低いでしょう。
フィロソフィー、キャッチコピー、ロゴ、ブランドカラーを決める
アイデンティティに相通ずる部分もありますが、フィロソフィー、さらにはフィロソフィーに基くキャッチコピーやロゴ、ブランドカラーも設定しましょう。
これらは分かりやすさに繋がります。
どのような情報であれ、分かりやすさが大切です。地域ブランティングで失敗するパターンとして、発信したい情報がありすぎるため、「何を言いたいのか分からない」と思われてしまうケースです。
これではせっかくの情報発信も、正しく伝わりません。キャッチコピーやロゴ、ブランドカラーなど閲覧者に訴求しやすいものを設定し、シンプルなアピールを心掛けましょう。
現代のトレンドである「体験型」を意識する
地域ブランティングの肝となるのが「体験」です。
歴史がある、産業がある。このような情報だけで、足を運ぼうと思う人は少ないでしょう。しかし、歴史や産業があり、それを体験できるとなれば、興味を持つ人も増えるのではないでしょうか。
町の魅力を情報として知ってもらうだけではなく、体験してもらえる環境を整え、足を運んでくれた人間に体験してもらうことを心掛けることもポイントです。
3Rをとことん意識する
現代社会では3Rへの意識が高まっています。リデュース、リユース、リサイクル。これらもまた、地域ブランティングでは大切です。例えば人を呼び込みたいからと新しいものを建てる。これでは地域の独自性は薄まります。
しかし、事例にもあったように、古民家や空き家を有効活用することで、地域の特性のアピールにも繋がります。
環境問題としてのアプローチはもちろんですが、3Rを意識することで、実は地域特性の効果的なアピールに繋がります。
まとめ
地域ブランティングにより、活気を取り戻した地域もあります。
しかし、地域ブランティングが必ず成功するとは限りません。紹介した町も、地域ブランティング成功のために様々な施策・検討・勉強を行っています。
いわば地域ブランディングに於いても競争原理が働いていますので、「やれば成功する」と高を括るのではなく、成功するためには何が必要なのか、真摯に向き合う必要があります。